人生最高の出会い@2019年
新卒入社して以来10年在籍した会社を退職してすぐに迎えた2019年の暗黒週間(世間では黄金週間と呼ぶ)
人間不信はピークだった
周りの人間が全て敵に見えていた
働く気力は完全に失せていた
セカンドライフという仮想世界
アクションゲームも他人との協力プレイも好きでも得意でもないオレにとって、
そこはまさしく現実逃避の恰好の場所だった
居場所などいらない
放浪の日々を過ごせば人と関わることもない
「また」人間関係に煩わされることもないだろう
それでも見た目は国籍不明の「変な外国人」のままでは嫌だ
アカウントを取得する前に情報を集めた
日本人向けのフリーのスキンとシェイプ(なるもの)を配布してる場所を押さえた
初めてログインし
そこそこ楽しめるチュートリアルを済ませ
「皮と骨格」をもらいに行った
見た目を少しイケメンと思われる日本人にできた
ログオフして次の情報収集に入った
島国根性ゆえか
やはり日本人のいるSIMに行ってみたかった
とは言え、カフェやバー、ましてやコミュニティのような「人との関わり」を前提としているところには行きたくなかった
「リゾート」というカテゴリが3件あった
リゾートなら、人がいても互いに干渉することはないだろうと思った
名前と紹介文で選んだ
Eternal Twilight
悠久の黄昏か・・・
黄昏という響きが自分の心情にぴったりな気がしてログインした
テレポートしたら
チャットレンジ内に人がいた
話しかけられたりしたら面倒だな、嫌だなと思っていたら
「こんにちは^^」と話しかけられた
返答せずテレポートしようか迷っているとその人が視界に入ってきた
「あ、綺麗な人・・・」そう心の中で呟いた
『返答せずテレポート』が選択肢から消えていた
「お困りのこと、ありませんか?」
ありきたりの言葉なのに何故かとても温かく感じられた
「いや、右も左もわからずに途方に暮れています」と答えると
「ちょっとこちらをご覧ください」と彼女が移動したので、体の向きを変えた
「ほら、今のが右ですよ。反対が左ですから、もう右と左がおわかりになりましたね^^」
一人の部屋で思わず声を上げて笑ってしまった
「面白い方ですね」と自然に返せた。
「それだけが取り柄です笑」と彼女
そんな訳はない
このテンポの良さ
人の緊張を素早く解く自然な振る舞い
なにより美形アバターが板についてる雰囲気・・・
実物もきっと聡明な美人なんだろうな・・・
プロフィールが気になり、開いてみた
このSIMのオーナーだ!!
「あ、オーナーさんだったんですね!?」
「敢えて言おう、神であると!」
また、思わず吹いてしまった
「ギレンですか!笑」
「心は坊やです( ̄^ ̄)ゞ ガンダム 好きに悪人なし!」
楽しい
計算にしては早すぎるこの自然なボケだかツッコミだかわからないネタ振り
もっとこの人と話していたい!!
そう思ってる矢先
「あ、すみません!ちょっとログアウトしないといけないので、失礼しますm(__)m」と彼女
「ここにずっといてもいいですか?」
離れたくない想いで反射的に吐いてしまった
「ええ、もちろんです!住み着いていただいても構いませんよ笑」
「美夕さんのストーカーになっちゃうかもしれませんよ?」
「望むところです! かかってこいやぁ!笑」
なんて可愛い人なんだ
本当は迷惑だろうに・・・
「本気にしちゃいますよ」と自分でも信じられない程に図々しい言葉が出てくる
「私、言葉は額面通りに受け取って頂ける前提で口にしてますから^^」
この瞬間、自分の中で何かが弾けた
「好きです」
オレ、何言ってんだ?!
数分前にあったばかりなのに!!
慌ててその場を取り繕うとするオレを尻目に
「望むべくもないお言葉、嬉しく思いますm(__)m」と彼女
「え?! 驚かれないんですか?」
「初対面で告白されるの慣れてるので笑」
冗談で返したリアクションなのかもしれないがすべてが府に落ちた
彼女は求愛や愛の告白をされることに慣れている
リアルで結婚してるのかはわからないが恋愛の達人であることは間違い無い・・・
オレを傷つけないようにうまく「あしらって」くれたんだな・・・
一気に凹んでいるオレの心中を察してか、彼女は言葉を重ねた
「でも、慣れてるからと言っても、嬉しく思うかどうかは別の話ですからね^^」
オレの告白は嬉しかった…ってことか?
「それって、どう理解したらいいですか?」オレらしくない質問を投げ返した
「こらこら、急いだらアカンやないの^^ 時間をかけて理解してくださいな^^」
「あ、そうですよね汗」
・・・え?! 「時間をかけて」??
「ここに住み着かれるのなら時間はたっぷりありますよね?^^」
やった・・・、肯定、いや、許容はしてくれるんだ!
「はい! 確かに!」
途端にテンションが上がった
「いいお返事!笑」
大好きな先生に褒められたような気分でいると
「では、またこの世界で^^」
スマートなその響きに魅せられ
「またこの世界で」とつられて返した
「ノリの良い人、好きですよ^^」
このリップサービスに瞬間にしてのぼせ上がった
「やった!!」と即応するオレに
「 (^ε^)-☆Chu!!」
とキスマークを残して彼女はログオフした
オレの恋心を一切合切持ち去って・・・
「人と関わらないため」という目的は一瞬にして雲散霧消した
リアルでも経験したことのなかった一目惚れによって
(この後、しばらくの間、オレは、矢継ぎ早に彼女に絡みつく多くの恋心とそれに翻弄され苦悩する彼女の姿を傍観することになる)